---Anniversary

長い廊下の突き当たりに扉がある。
大きくて立派な両開きの扉だった。
は扉を押し開ける。

並んだ長椅子。ステンドグラス。十字架・・・。
教会だった。

ずらりと並んだ椅子には人影はない。
だが、祭壇の前には二人がいた。

白いタキシードに赤い花を胸に飾った光一と、
黒のタキシードに白い花を胸に挿した剛。

は白いドレスの裾を引きながら二人に歩み寄る。

光一と剛は、が近付いてくるのを微笑みながら待っている。
は、ふと気付く。
これは結婚式だろうか? でもどちらと?
は戸惑って二人の前に立ち止まる。

「神父さまは?」
は思っているのとは全然違うことを訊いた。
決定的な瞬間を無意識に避けようとしていた。
「誰もいないけど、ええやん」
「そうそう。別にキリスト教徒ちゃうしな」
光一と剛は、そう言って視線を交わし、楽しそうに笑う。
はふと、結婚するのは光一と剛で、自分はただの立会人なのではないかと思った。
そう思うとも楽しくなり、二人と一緒に笑った。

ちゃんはこっち」
剛がそう言って手を差し出す。
「どうぞ、お姫様」
光一もそう言っての手を取った。

二人に両側から手を取られての心臓は急にドキドキしてくる。
「流石、王子やね」
「当たり前やろ。大事なときやねんから、真面目にやれや」
二人はそんなことを囁きあいながら、目配せしあっている。

二人に導かれて、は花が飾られた十字架の前に立った。
「指輪の交換は省略な」
「三人やとこんがらかるしな。後でごっついの買うたるから」
「おお! 剛さん、太っ腹! オレにも、オレにも・・・」
「なんでオレがオマエに買うねん・・・まあ、後で三人で買いましょう」

二人の言葉に、は驚くと同時に安心する。
二人のどちらかを選ぶ必要はないらしい。両方と結婚できるのだ。こんなに幸せなことはないと思った。

「じゃあ、誓いのチューを・・・」
光一が照れ隠しなのか、笑顔で剛の方を覗き込みながら言う。剛は逆に真面目に受けた。
「はい・・・」
「チューをね・・・」
「いきますか」
「いきましょうよ」
二人がのベールを上げる。
はドキドキしすぎて立っていられなくなりそうだった。

思わず身体を強張らせるに、光一が笑いながら言う。
ちゃん、咄嗟に逃げんといてや。そうしたら剛とチューしてまうからね」
「それは最悪やね」
剛も光一に併せて言いながら笑う。
は少し緊張がほぐれた。

光一と剛の顔が両側からゆっくりと近づいてくる。
は思わず目を閉じた・・・。

 

 ★★★

着信メロディが鳴っていた。
は急速に現実に引き戻されながら、強い失望を感じる。
どうせ夢なら、最後まで見たかった。
急に鳴り始めた携帯電話を恨めしい気持ちで引き寄せたが、
その着信メロディが誰からのものか思い出して、再び心臓が飛びあがった。

暗闇で光る表示窓には「堂本剛」という名前が出ている。
軽く咳払いしながら、は急いで電話に出る。

ちゃん、お誕生日おめでとぉ〜!』
飛びこんできたのは、ハイな剛の声だった。
大勢の人と一緒に飲んでいるようなざわめきが背後から聞こえている。
「・・・ありがとうございます。覚えててくれたんですね」
『エライやろ? でも、ごめんねえ。寝てた?』
「・・・はい。でも、嬉しいです」
『今さぁ、仕事終わって打ち上げしてたの。そしたら、ちゃんの誕生日だったなぁって思い出してさ。
メールでもよかったんやけど、電話しちゃった。寝てたのに、ごめんねえ』
「いえ・・・。ホントに嬉しいですよ」
『ちょっと待ってね。光一に代わるから』

ごそごそする音の後、今度は光一の声が聞こえる。
ちゃん、おめでとうな〜』
「はい、ありがとうございます」
『夜分にごめんなさいね〜。じゃあ、剛に代わるわ』
あっさりと言った光一に、剛が「もっとなにか喋れや」とか言っている声が聞こえてきて、は微笑む。
『あんなぁ、今なぁ、カラオケ屋にいるねん。今から光一くんがちゃんの為に1曲歌ってくれるから・・・』
背後から「え〜?! オマエが歌えや」と光一の声がし、剛が「誕生日プレゼントやないか」と反論している。
は声を上げて笑ってしまった。

ちゃん、何かリクエストある?』
「じゃあ、二人で“愛のかたまり”歌って下さい」
『分かった。・・・“愛のかたまり”ある? 入れて〜!』
誕生日なんていらないくらい・・・と剛と光一が替え歌で歌ってくれているのを電話越しに聴きながら、
は夢の続きに負けないくらいステキな現実に酔った。

(Anniversary ★終★)

>> あとがき

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★ あとがき ★★

夢オチかい?!・・・ってことですが、今までで一番甘い感じになったかな?

実はこれ、私の誕生日企画・・・(9月生まれ。おとめ座です)。
自分でやるのって恥ずかしいですけども。
でも私も日頃いろい〜ろ頑張ってるわけで、ストレスが吹き飛ぶようなものを一発・・・と思ったらこんなん出来ました。
しんどいの結婚式デートから連想したんですけどね。

夢を見ているときって、後で正気になったらピントがずれていることを、真剣に考えていたりしませんか?
そういう感じは出てるかな・・・と思うのですが。

タイトルは、「記念日」ってことで、お誕生日と結婚式をどっちでも取れるようにしました。
私はリアルではこんな夢を見たことはないですよ。見てたら怖いかな?(笑)
夢には顕実夢というのがあって、夢を見ながら「これは私の夢だから思う通りにできる」と意識していられると、
夢で起こる出来事をコントロールできるらしいです。
でも、私は出来ないですね〜。

あなた様のストレスもちょっとだけ飛んでいってくれたら、私も幸せです。